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カツオが1尾24万円‼「初鰹」に熱狂した江戸の初物ブームとは?
2022年04月20日
カツオの旬は年に2回あることを知っていますか?
3月~5月にかけて、潮の流れにあわせて日本近海に北上するカツオは、その年に初めて水揚げされるという意味から「初鰹(はつがつお)」と呼ばれています。
身が引き締まっていてプリッとした食感で、脂が少なめのさっぱりとした旨味が特長です。もうひとつの旬は秋。9月~11月に産卵活動に入るために南下するカツオを「戻り鰹」と呼びます。産卵に向けてこってりと脂がのり、濃厚な味わいです。
実はこの「初鰹」。江戸時代、とくに江戸っ子の間で、いまとは比べ物にならないほどの人気ぶりだったようです。
当時、初鰹を季語にした俳句が多数つくられたことからも、その様子がうかがえます。初鰹を使った有名な俳句を二句、ご紹介します。
*「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」
→「青葉」「山ほととぎす」「初鰹」はすべて夏の季語です。一句のなかに季語が複数入るものを、俳句の世界では「季重なり(きがさなり)」といいます。通常であれば敬遠される季重なりですが、この句は季語を3つも連ねることによって、読者に初夏の到来を感じさせますね。
*「まな板に 小判一枚 初鰹」
→他の時期より高値の小判一枚(だいたい8~10万円程度)を出してでも、初鰹を食べるのが粋!という、江戸っ子の心意気を感じますね。
江戸の風俗史「守貞謾稿(もりさだまんこう)」によると文政のころは二両や三両したこと、山東京山(さんとうきょうざん)の随筆「蜘蛛の糸巻」にも初鰹が1尾三両だったと記されています。江戸時代の時期にもよりますが、一両がだいたい8~10万円程度だとされています。そうなると、1尾三両の場合、円に換算すると安く見積もっても24万円もすることになりますね!なぜ、初鰹はそんなに高値で取引されたのでしょうか?その理由は、江戸時代の人たちの「初物」へのこだわりにあります。
※一両の円換算参考:
三省堂編『古文書を読む 解説ノート16号』(日本放送協会学園、2007年)49頁:一両=八万円~十万円。(享和二(1802)十返舎一九『東海道中膝栗毛』)
初物とは、その季節に初めて収穫された農作物や、初めて捕れた魚介類などのことです。
「旬」と「初物」は混同しがちですが、「旬」が「野菜や果物が一番おいしく最盛期のとき」なのに対して「初物」は「旬」よりも先に捕れたものを指します。
日本では昔から、初物や季節を先取りすることは縁起がよいと考えられており、初物を食べると75日寿命が延びるという意味の「初物七十五日」という言葉が庶民の間に浸透していました。どんな食材でも季節の初めに収穫したものは初物ですが、特に人気の食材は「初物四天王」と呼ばれていました。
それでは、当時人気だった初物四天王について見てみましょう。
・鮭(さけ)
その年の秋、はじめて産卵のために、川をさかのぼってきた鮭が初鮭と呼ばれ、秋の味覚として人気だったようです。
・茄子(なす)
昔から初夢に「一富士 二鷹 三茄子(なすび)」を見ると縁起がよいといわれていたように、江戸時代から初茄子は縁起物でもありました。
江戸時代初期、茄子の産地として有名だったのは駿河(現・静岡県)です。X
旧暦の5月に箱根の山々を越えて駿河から江戸へ運ばれる「初なりの茄子」は将軍さまに献上されました。庶民もその味を楽しみたいと初茄子の人気が高まり、信じられないような高値で取引されるようになりました。
・松茸(まつたけ)
今も昔も庶民には「高嶺の花」の松茸。
江戸時代、松茸は江戸よりも上方(大坂や京都)で人気が高く、上方では秋の行楽として松茸狩りもしたようです。
初物の松茸のことを初茸と呼び、将軍さまに献上される初茸は上州太田(現・群馬県太田市)にある金山産のものに限定されていました。秋に初物がとれると選別作業をしたあと竹カゴに詰め、「御松茸御用」と仰々しく書かれた札を掲げながら、人足たちが昼夜休むことなく、リレー方式で江戸まで大急ぎで運びました。将軍さまに新鮮な初茸を届けるために、群馬県太田から江戸までわずか20時間ほどで運んだといわれています。
・鰹(かつお)
そして最後にご紹介するのがカツオです。初物四天王の中でも群を抜く人気でした。カツオはその音が「勝男」とも通じることや、北条氏綱(ほうじょううじつな)という武将が、自分の船にカツオが飛び込んできて、その船で戦うと勝利を収めたという逸話があることから、武士の間でも縁起のよい贈り物としても重宝されていました。そんな縁起のいい「初物」と「カツオ」が合わさった「初鰹」は、ダブルで縁起がいいということで、武士から庶民まで、誰もが夢中になるほどの熱狂ぶりだったそうです。江戸っ子は新しいもの好きなうえに見栄っ張りな気質。誰よりも先に初鰹を食べて自慢のタネにしたようです。
初夏の季語として「初鰹」が人気であったことをご紹介しましたが、初夏の季語には他にも食にまつわる言葉がたくさんあります。
初鰹(はつがつお)
筍飯(たけのこめし)
豆飯(まめめし)
柏餅(かしわもち)
新茶(しんちゃ)
いずれもおいしそうな言葉ですね!現代では江戸時代とは違って、栽培方法や物流の進化などによって季節問わずに食べることができる食材が増えていますが、「旬」や「初物」を意識して食材を選ぶことで、食事から日本の四季を感じるのも素敵なことですね。