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食品廃棄量は東京ドーム5杯分!日本の食品ロス事情と削減の取り組み
2023年08月02日
まだ食べられるのに、捨てられてしまう食べ物のことを「食品ロス」といいます。食べ物を捨ててしまうのは、もったいないだけでなく、地球環境にも悪影響を及ぼします。今、これからの未来に向けて、食品ロスを減らすためのさまざまな取り組みが世界各地で行われています。今回は、この「食品ロス」についての現状と課題、日本の取り組みについてご紹介します。
FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されています。
日本でも1年間に約612万トン(2017年度推計値)もの食料が捨てられており、これは東京ドーム5杯分とほぼ同じ量。日本人1人当たり、お茶碗1杯分のごはんの量が毎日捨てられている計算になります。日本の食料自給率は38%で、先進国の中でも低く、多くの食べ物を海外からの輸入に頼っています。しかしながら、多くの食品ロスを生み出しており、たくさん輸入して、たくさん捨ててしまっているのが日本の現状です。
日本での食品ロスの原因は、大きく分けて2つあります。一つは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど小売店での売れ残りや返品、飲食店での食べ残し、売り物にならない規格外品といった事業系食品ロス(328万トン)。もう一つは、家での料理の作り過ぎによる食べ残しや、買ったのに使わずに捨ててしまうこと、料理を作る時の皮のむき過ぎなどの家庭系食品ロス(284万トン)です。
実は開発途上国でもまた、先進国と同様に食品ロスが発生しています。ただし、理由は異なり、せっかく食べ物を作っても技術不足で収穫ができない、流通環境や保存設備、加工施設などインフラが整っていないため、市場に出回る前に腐ってしまうなどの理由からやむをえず捨ててしまうことが多いのです。
現在、地球上には約80億もの人々が生活をしていますが、途上国を中心に8億人以上(約10人に1人)が十分な量の食べ物を口にできず、栄養不足で苦しんでいます。その一方で、先進国では余った食料がまだ食べられるのに捨てられているのが現状です。
食品ロスを放置すると、大量の食べ物が無駄になるだけでなく、環境悪化や将来的な人口増加による食料危機にも適切に対応できません。食品ロスの削減は、先進国にとっても途上国にとっても、避けて通れない喫緊の課題となっています。
余った食べ物は、加工業者や流通業者、飲食店、家庭などからごみとして出されます。これらは処理工場に運ばれ、可燃ごみとして処分されますが、水分を含む食品は、運搬や焼却の際に二酸化炭素(CO2)を排出。また、焼却後の灰の埋め立ても環境負荷につながります。
世界の人口は2022年時点で約80億人ですが、2058年には約100億人に達するとみられています。食品ロスに関して何も手を打たず、今のままの状況が続けば、人口増加に伴って栄養不足で苦しむ人がますます増え、貧困に拍車がかかることになります。
食品ロスや貧困、地球環境の悪化に関して国際的な関心が高まる中、2015年の国連サミットでは、食料の損失・廃棄の削減などを目標とする「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が採択されました。2030年までの達成を目指す国際社会共通の持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)として17のゴール(目標)と169のターゲット(達成基準)が示され、各国や地域で積極的な取り組みが始まっています。
SDGsのターゲットの一つに、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」という目標(ターゲット12.3)が盛り込まれました。食品ロスの削減を通じてこのターゲットを達成するには個人、事業者、自治体、NPO法人など、さまざまな方面からの協力が欠かせません。
国連や各国政府は、食品ロス削減に向けて具体的な数値目標を掲げ、効果的な方法を探っています。こうした流れを受け、日本でも自治体や企業などを中心に、未開封で賞味期限内の食品を寄付する「フードドライブ」や、捨てられるはずの規格外の野菜を活用した食堂など、さまざまな取り組みが全国で広がりつつあります。また、日本で開発された画期的な冷凍技術が食品ロスの削減に貢献しています。
「CAS(Cells Alive System)」は、食品中の水分を「過冷却」の状態にして、一気に凍らせることで「瞬間冷凍」ができる冷凍技術です。
通常、食材を冷凍すると、氷の膨張により食材の細胞が破壊され、うまみ成分が溶けだしてしまうため、冷凍前より食材の鮮度や美味しさが損なわれることが一般的でした。しかし、CAS冷凍では、特殊な地場の振動で水分が氷にならず、零度よりずっと低い温度にしてから凍らせることで、細胞の破壊に氷の膨張を極限まで抑えられ、細胞が破壊されずに冷凍することができます。解凍すれば、ほぼとれたての状態に戻り、数年経過しても解凍後に新鮮なおいしさをよみがえらせるため、「食材の時を止める冷凍技術」といわれています。
岩手県大船渡市のある水産会社は、東日本大震災後、風評被害の影響で生魚の出荷が減少したため、冷凍に適した魚の締め方を学び、8年をかけて冷凍技術を習得しました。今では、ふるさと納税の返礼品や海外への輸出品としても人気を得るまでになり、遠くドバイの高級レストランでも、大船渡のヤリイカが提供されるようになりました。
このCASの技術は、“食”以外でも注目されています。京都大学iPS細胞研究所は腎臓病の治療で、iPS細胞でつくった腎臓細胞を生かしたまま冷凍保存するのにCASを活用しています。国内の遠方や海外に細胞を輸送するのにも役立つ技術として、CASが期待されています。
日本は事業系食品ロスを、2030年度までに2000年度比で半減するとの目標を立てています。同様に家庭系食品ロスについても2030年度までに半減させる目標を設定しています。
出典/食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(農林水産省)
私たち一人ひとりが身近なところから食品ロス削減を意識することが、目標達成には必要不可欠です。まずは、“買い物は食べる分だけ”“買った食材は使い切る”など、私たちができることから始めてみましょう。
参考/
日本テレビ「地球の未来ストーリー 日本がつなげる世界のスマイル」
農林水産省