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【職業紹介シリーズ】木のお医者さん『樹木医』の仕事とその魅力
2025年12月17日

街路樹や公園の大木、神社の御神木、歴史ある天然記念物の巨木まで、私たちの身近にある木々の健康を守るスペシャリストが「樹木医」です。木も人間と同じように病気になったり、傷ついたりします。そんな木々を診断し、治療する樹木医は「木のお医者さん」とも呼ばれています。今回は、自然と向き合いながら、貴重な緑を未来へ繋いでいく樹木医という職業について詳しく紹介します。
樹木医は、病気にかかった樹木や衰弱した樹木の診断・治療・予防を行う専門家です。具体的には、樹木の外観や葉の色、幹の状態などを観察し、病害虫の被害や土壌環境の悪化、根の損傷など、樹木が弱っている原因を突き止めます。診断後は、薬剤散布や土壌改良、外科手術のような腐朽部分の除去、支柱の設置など、樹木に合わせた治療を施します。また、公園や街路樹の管理計画の立案、開発工事による樹木への影響評価、天然記念物の保護活動なども重要な仕事です。樹木医は造園会社や建設コンサルタント、自治体、研究機関などで活躍しており、時には樹齢数百年の貴重な樹木の命を救うこともあります。
樹木医として働くことには、他の職業では得られない独特の魅力がある一方で、自然を相手にするからこその大変さも存在します。
自然を守る達成感が得られる
樹木医の最大の魅力は、自分の手で貴重な自然を守り、未来へ繋げられることです。特に、地域のシンボルとなっている巨木や、何百年も生きてきた天然記念物の治療に成功したときの喜びは格別です。枯れかけていた木が元気を取り戻し、再び美しい緑を茂らせる姿を見ると、この仕事を選んで良かったと実感できます。また、自分が治療した木が次の世代、さらにその次の世代へと受け継がれていくことに、大きな誇りを感じられる職業です。地域住民から感謝の言葉をもらえることも多く、社会貢献を実感できる仕事といえるでしょう。
毎回違う課題に挑戦できる
樹木医の仕事は、同じ症状の樹木が二つとないため、常に新しい挑戦の連続です。樹種によって特性が異なり、生育環境も一本一本違うため、それぞれに最適な診断と治療方法を考える必要があります。サクラの病気、マツの松くい虫被害、クスノキの根腐れなど、扱う樹種や症状は多種多様です。また、都市部の限られたスペースでの治療と、山間部での広範囲な森林管理では、求められるアプローチもまったく異なります。このように、一つとして同じケースがないからこそ、飽きることなく常に学び続けられる、知的好奇心が刺激される職業なのです。
幅広い知識と技術が身につく
樹木医になると、植物学、病理学、昆虫学、土壌学など、自然科学の幅広い分野の知識が身につきます。さらに、実際の診断や治療を通じて、観察力、分析力、問題解決能力といった実践的なスキルも磨かれます。木登りや重機の操作といった体を使う技術も必要で、デスクワークだけでなく、現場での作業も多いため、バランスの取れた能力が養われます。また、自治体や企業との調整、住民への説明なども行うため、コミュニケーション能力も自然と向上します。これらの多様なスキルは、樹木医としてだけでなく、人生全体において役立つ財産となるでしょう。
体力的にきつい作業が多い
樹木医の仕事は、想像以上に体力を必要とします。高い木に登って枝を調査したり、重い機材を持ち運んだり、真夏の炎天下や真冬の寒さの中でも屋外作業を続けなければなりません。特に、大木の治療では、高所作業車を使ったり、ロープを使って木に登ったりすることもあり、体力だけでなく高所での作業に慣れることも求められます。また、病害虫が発生しやすい時期は特に忙しく、休日返上で現場に駆けつけることもあります。デスクワークのイメージとは大きく異なり、肉体労働の側面が強い職業であることは、事前に理解しておく必要があります。
結果が出るまで時間がかかる
樹木医の仕事は、すぐに成果が見えるわけではありません。人間の医療と違い、樹木の回復には数ヶ月から数年、場合によっては十年以上かかることもあります。一生懸命治療しても、残念ながら樹木を救えないこともあり、そのような時には無力感を感じることもあるでしょう。また、土壌改良や予防的措置の効果は、さらに長い年月を経てようやく表れるため、自分の仕事の成果を実感しにくい面もあります。即座に結果を求めるタイプの人には向いていないかもしれません。長期的な視点を持ち、じっくりと樹木と向き合える忍耐強さが求められる職業です。
樹木医になるには、まず「樹木医補」の資格を取得するため、樹木の保護や管理に関する実務経験を5年以上積む必要があります。樹木医補は、指定された大学の樹木医養成課程を修了し1年の実務経験を経て取得できます。実務経験のルートでは、造園会社や林業関係の仕事で経験を積みながら、樹木医の受験資格を得ることになります。
受験資格を得るには、一般財団法人日本緑化センターが実施する樹木医資格審査に合格する必要があります。この試験は選択試験(筆記)と業績審査からなる一次審査と、研修・面接試験からなる二次審査に分かれており、合格率は20%前後と難関です。試験では、樹木の生理、病理、害虫、土壌などの幅広い知識が問われます。
樹木医を目指すなら、高校では生物や化学をしっかり勉強しておくことが大切です。また、大学では農学部や林学科、造園学科などで専門的な知識を学ぶと良いでしょう。実際の現場では、観察力や根気強さ、そして何より木が好きという気持ちが重要になります。興味がある人は、まず身近な公園や街路樹を観察することから始めてみましょう。樹木の種類を覚えたり、季節による変化を記録したりすることで、樹木への理解が深まります。
ちなみに、樹木医のような資格制度は、実は世界的に見ても珍しい日本独自のシステムです。海外では造園家や森林管理者が似た役割を担っていますが、日本のように専門的な「木の医者」という職業が確立されているのは珍しく、日本の自然を大切にする文化の表れといえるでしょう。
樹木医は、日本の緑を守る大切な仕事です。都市化が進む中で、貴重な樹木を保護する専門家の需要は今後も高まっていくでしょう。木と対話し、その命を守る樹木医という職業は、自然が好きな人、生き物の世話が好きな人、地道な努力を続けられる人にぴったりです。あなたも将来、樹齢数百年の巨木を救う樹木医として活躍してみませんか。


